2011.11.09
これも25年以上前のこと。当時、昇級審査を終えると、芦原先生は必ず黒帯の道場生を連れて食事に行かれていた。
いつもはラーメン屋や中華料理屋、焼肉屋が多いのだが、その日は何故か、今は無き赤坂プリンスホテルの最上階にあるトップ・オブ赤坂というラウンジに行くことになった。
朝から一日中審査のお手伝いをしていた我々はすっかり腹をすかせていた。
「カツ丼でも出してやってくれ」。フロアマネージャーに先生がおっしゃった。マネージャーは何故だか悲しそうに、かつきっぱりと「芦原館長、カツ丼はありません」と答えた。
「えーっ、カツ丼無いの!!じゃあチャーハンか何か。えっ、それも無い!なんでもいいからみんなに腹いっぱい食わせてやって。みんな腹すかせとるけんなあ」
運ばれてきた山のような乾きものを我々はしこたま食べた。この当時はとにかくいつも腹をすかせていたので、食べ物が目の前にあれば、腹がパンパンに膨れるまで食べ続けるのがつねであったのだ。
今日はこれ以上食べ物にありつくことは無いだろうと、全員が乾きもので、“もうこれ以上食べられません状態”になったころ、ラウンジの窓から赤坂見付の街をじっと見下ろしていた芦原先生がつぶやいた。「あそこに中華料理屋があるなあ……」。それから大きな声で「みんなまだ腹減ってるだろう。あそこに移ろう」
店はうまい具合に全員が座れるぐらいにすいていた。
「ビールと餃子。それからラーメン大盛りとチャーハン大盛り」。入るなり先生は注文された。そうか、先生はラウンジではあまり召し上がってなかったからお腹がすいていらっしゃるんだなあとぼんやり考えていたのだが、注文はまだ終わったわけではなかった。。
「それを全員に!!みんな食えるようなあ?」
一瞬の沈黙の後、我々は小さな声で「押忍」と答えた。
もちろん全員必死で完食したのは言うまでもない。